漢文の小テスト

高校3年生のとき、たしか秋頃からだったと思うのだが、朝のホームルーム直後に漢文の小テストを毎週行うようになった。高3の秋と言えばセンター試験がすぐそこまで迫っている時期で、その対策をしましょうということで学年主任(現代文・古典担当)が発起人となって始めたようである。

意図はわかるのだが、毎週、漢文だけに時間を割くのは少々きつく、しかも間違えた問題があればその日のうちに学年主任の元へ行き、再テストを受けなければいけないという、まあよくもこんな面倒なことを思いつくなぁと言いたくなるようなシステムだった。

僕が通っていたクラスは進学組、就職組が半々といったクラスで、進学組も全員が4年制の大学を目指しているわけではなかった。つまるところ、ほとんどの生徒にとって、こんなに漢文を勉強する意味はない。でも、やらなくちゃいけない。

今だから言うが、クラスの担任含め、他の3年部の先生もここまで漢文に熱心になることに疑問を抱いており、最初のうちは真面目に取り組んでいたクラスの生徒も、1ヶ月経つ頃には完全に嫌になっていた。

そしてついに我慢の限界を迎えた、僕を含めた仲良しグループは、学年主任という立場を利用し、他の先生の疑念を押し退けてまで漢文の小テストを強行する独裁政治に対抗すべく、ある重大な決断をする。

かの有名な「諦め」である。もはやカンニングを企てることすら面倒になった僕たちは、センター試験に本気で望まなくていい立場を逆手に取り、完っっ全に諦めることにしたのだ(僕はその頃には指定校推薦で合格を決めていた)。

聞けば昼休みにもなると、他のクラスの生徒も含め、結構な人数が学年主任の元へ再テストを受けに行っており、かなりの行列になっていることもしばしばだとか。結構、結構。僕たちも並んでやろうじゃないか。人気のラーメン店がなんだ、新作のスマートフォンが発売されるからなんだ、僕たちは漢文の再テストを受けるために行列に並んでやる!そうした覚悟(開き直り)を持って、僕たちは漢文の小テストと本気で向き合うことを辞めた。

 

僕たちが諦めたのと時を同じくして、漢文の小テストが返却されなくなった。いや、間違いなくテストはみんな受けたし、学年主任の話によれば採点もしたらしい。だけど、集計を取っている最中だという、それまで聞いたこともなかった理由で、漢文の小テストは返却されなくなった。きっと不合格者が一気に増えて、学年主任も面倒臭くなったんだろうな。

 

高校を卒業して10年以上経った。今更点数を知りたい訳ではないし、学年主任も今では退職してどこにいるか分からないけれど、あの漢文の小テストはどこへ行ったのだろうか。それだけ、気になっている。