井の中のアイランド

エクスとプレス

大きくなれよ

たまに友人から「いついつにどこどこで車ですれ違ったよ!」なんて言われる。「すれ違ったの気づいた?」と続くが、僕は一切気づいていない。

そもそも運転中は真っ直ぐ前を見て、安全に留意しているので、対向車の運転手まで気にしている余裕は僕にはない。だから知り合いと車ですれ違ったことに気づいたことなんてない。にも関わらず、友人は僕に気づいているらしい。しかも「後ろに乗ってたのお母さん?」とやけに具体的に言ってくる。何故そんな余裕があるんだ。

僕の車は目立つような車ではない。紺色の軽自動車だから、街に溶け込んでしまう。だから車種で気づいている訳ではなさそうだ。また、普段はあまり使っていない道ですれ違っていることもあるらしいので、場所で判断している訳でもないらしい。

これは由々しき事態である。車中の僕は完全オフの状態になっているので、ぶつぶつ独り言を言ったり、歌を口ずさんだりしていることがある。そんな瞬間を見られたら、なんかこう…恥ずかしいじゃないか。車中でもオンの状態にしておかなければならないなんて辛すぎる。僕だと気づかれないようにしたいが、向こうが気づいてくるのだからどうしようもない。いっそのこと、気づかれたときにインパクトを与えることを考えるべきか。ちょうど運転中の眼鏡着用が必須になってしまったし、2002と数字を象った眼鏡でも着けて運転してやろうか。もしくはめちゃくちゃインパクトのある車に乗り換えてやろうか。ガルダフェニックスとか。

いっそ僕も対向車の運転手を逐一チェックしてやろうかと思いながら帰宅していると、道端から仔狸が飛び出してきた。轢かずに済んだのは、真っ直ぐ前を見て運転していたからだ。やっぱり僕は前を見ることにする。