井の中のアイランド

後の加藤ローサである

ベンチ外の矜持

7月に入り、本格的な高校野球シーズンが始まった。

秋田県では7月6日に開会式が行われる予定だ。梅雨の時期ということもあり仕方ないが、なるべく予定通りに進んでほしいところである。

今年は県内のメイン球場であるこまちスタジアムが改修のため使用できない。そのためさきがけ八橋球場がメイン球場として使用される他、由利本荘市の水林グリーンスタジアムも主要会場として使用される。

水林グリーンスタジアム(2018年撮影)

水林グリーンスタジアムは僕が小学校の頃から何度も試合したことがある球場だ。当時は水林球場というシンプルな名前で、スコアボードが手動だった。僕はなかなかベンチ入りできる選手ではなかったので、水林球場ではよくスコアボード係をやっていたものである。スコアボードの裏から試合を見ながら「今度は俺もプレーする側になってやるわい」と、メラメラ心を燃やしていたものだ(味方の良くないプレーに時々小声で悪口を言いながら)。

水林球場は僕が高校を卒業した後に大規模改修され、写真のように全面人工芝の綺麗な球場になった。もちろんスコアボードも電動である。だから、今の高校球児はスコアボード係になる必要がない。それはもちろん良いことなのだが、でも僕は、スコアボード係をやれてよかったと思っている。

スコアボード係をやっているということは、即ちベンチ外ということだ。ベンチ外の人しかスコアボード係はやれない。水林球場のスコアボード裏は、試合を俯瞰的に見られる場所だ。自分と同じ高校の野球部が試合をしているのに、全然知らないチームの試合を見ているような、どこか非日常の感覚があった。誰にも邪魔されずじっくり試合を見れる。これはなかなか面白かった。

もちろん野球をやっていた以上、ベンチ入りを目指していたのは当然だ。足りない実力を少しでも埋める努力もした。それでも駄目だったが、結果だから仕方がない。そこまでやって駄目だったなら、ベンチ外なりの楽しみを探す権利がある。

2024年の夏、水林グリーンスタジアムではどんな試合が行われるだろうか。レギュラーとして試合に出る選手もいれば、残念ながらベンチ入りできなかった選手もいるだろう。ベンチ入りできない虚しさは僕も痛いほど分かる。だけど、ベンチ外の人しか味わえない楽しさは必ずある。逆に言えば、試合に出ている人は絶対にそれを味わえない。

ベンチ外の球児たちへ。どうか自分の力が足りなかったとか、人より優れていなかったとか、そんなことは思わないでほしい。君たちのこれまでの努力は、ベンチ外を存分に楽しむための引換券みたいなものだ。背中の数字とは全く価値が違う。好きで野球をやっていたなら、例えベンチ外でも野球を好きでいてほしい。いい夏にしよう。楽しい夏にしよう。