あの瞬間は確か数学IIの授業を受けていた。それまでの人生で何度か地震を経験してきたが、あんなに大きく長い揺れは始めてだった。震源が近いのかと思っていたが、慌てて教室へ入ってきた担任の話によると、震源は三陸沖らしかった。日本海に面する秋田県とは反対側だ。
近くの席に座っていた友人が「これって歴史に残る地震になりそうだね」と言っていたのを覚えている。結果として、圧倒的なまでに歴史に名を残した。
携帯電話を十数回鳴らして、ようやく母親に繋がった。街は信号の明かりも消え、各地で大渋滞を起こしていたようだ。幸いにも建物の倒壊などはなく、家族も皆無事なようだった。
家に帰ってからも当然電気は点かなかったので、蝋燭の灯りで一晩を過ごした。運悪く携帯電話の充電も尽きてしまい、地震の状況を知る術がなかった。何より友人と連絡を取れないのが心細かった。翌日学校が休みになることは知っていたが、部活が休みになるかどうかまでは知らなかった。さすがに部休だろと思うしかなかった(翌日、一足先に電話回線が復旧したので、家の固定電話で友人宅に連絡したところ、やっぱり部休になっていた)。
僕の暮らしている地域で電気が復旧したのは地震が起きた翌日の夕方頃。テレビをつけると、映画みたいな映像が流れていた。でも残念ながら映画ではなく、現実に起きていることらしかった。人生で本当に唖然呆然としたのは、たぶんあの瞬間だけだ。
あっという間に12年が経った。正直、復興のために僕が何かをできたことなどない。普通の暮らしができて、家族や友人がいて、生かされている命があって…。そういうものに感謝することしかできないのだ。
合掌。