井の中のアイランド

エクスとプレス

ほのおのいし

大学生の頃はアパートを借りて一人暮らしをしていた。1、2年生の頃に暮らしていたアパートは2階の角部屋、7畳でバルコニー付、風呂・トイレ別、大学まで徒歩5分くらいという条件ながら月々30,000円だった。値段も安く、ちゃんと綺麗で、何より2階の角部屋ということもあり非常に快適に過ごせていた。

ただ、4月の下旬頃から一つだけ気になることがあった。下の階の住人が、ブースターのぬいぐるみを干し始めたのである。

ブースター

ブースターとはポケモンの一種で、人気ポケモンであるイーブイの進化先として知られる。そのぬいぐるみが突如としてバルコニーに干され始めていたのだ。

普通に干されているだけなら、別に気にすることもない。ただ、干されている期間があまりにも長いのだ。3日経っても1週間経っても1ヶ月経ってもブースターは干され続けている。晴れの日も雨の日もブースターは干され続けている。季節が春から初夏に移ってもブースターは干され続けている。気にするなと言っても、アパートの階段の隣が件の部屋なので、否が応でも目についてしまう。取り込まれた形跡はない。

どうしてブースターを干したまま取り込まないのか、めちゃくちゃ気になる。理由が知りたい。ブースターを干し続ける理由が知りたい。僕は下の階の住人を見たことがない。だから理由を聞きに行く訳にはいかない。見ず知らずの男が「どうしてブースターを干しているんですか?」なんて急に聞いてきたら恐怖でしかない。たちまち近所の変な奴になってしまう。僕から言わせたらブースターを干し続けている方がよっぽど変だけど。

埒が明かないので理由を考察してみた。

ポケモン、とりわけブースターがめちゃめちゃ好き→ブースターを干し続ける理由にならない

②部屋にぬいぐるみを置いていたが置き場所がなくなった→数ヶ月も干し続ける理由にならない

③住人は女性で、男性用のシャツを干していたらストーカー被害の抑止になる的なノリでブースターを干している→意味が分からないし、それなら男性用のシャツを干せばいい

考えても考えても、納得できる理由が浮かばなかった。管理人に「下の階の住人がブースターのぬいぐるみを干し続けていて、気になって夜も眠れません」と言いに行こうか。駄目だ、近所の変な奴になってしまう。

そう思っていた矢先、突如としてブースターは取り込まれた(ぬいぐるみって取り込むで合ってる?)。何の前触れもなくて拍子抜けしたが、そもそも干され始めたのも何の前触れもなかった。こっちが気にするほど、住人は何も考えていなかったのだろう。ただ、ぬいぐるみとは言えずっと干されているブースターがなんだか不憫だったので、願わくば部屋に入れてあげてくれと思っていた。ブースターが部屋に入れてもらえて本当によかったと思う。季節は7月になっていた。

その数ヶ月後、突如としてブラッキーのぬいぐるみが干されていた。

ブラッキー

僕が無理矢理出した結論だが、下の階にはエンジュシティの舞妓さんが暮らしていたことになっている。