井の中のアイランド

エクスとプレス

赤い服は着てなかったんだけどな

大学3年生と4年生の頃、仙台市中心部にある荒町商店街を通学ルートにしていた。

数多くの飲食店に加え、スーパーや床屋など色々な店が並ぶ歴史ある商店街だ。地下鉄の駅からほど近いこともあり、常に人通りが多かったことを覚えている。

この商店街には外国の香辛料を取り扱ったお店もあり、その影響か外国人の方も多くみられた。あるいは外国人が多かったから香辛料のお店を作ったのかもしれない。

ある日のこと。いつものように自転車で大学に向かっていたところ、外国人の女性に呼び止められ「あの…郵便局は…どっち?あなたポスト?」と尋ねられた。

日本語は辛うじて話せるレベルだったようだが、郵便局というワードが聞こえたから、どこに行きたいのかはとりあえず分かった。僕のことをポストと間違えているくらいだから今すぐにでも郵便局へ行きたいのだろう。

しかし、僕は英語を話せない。その女性は中東系のお顔立ちをしていたから、もしかしたらアラビア語だったら通じるかもしれない。無論、アラビア語なんてもっと分からない。

幸い、女性から話しかけられた位置から真っ直ぐ30mほど進めば郵便局があったので、ジェスチャーを交えながら「ココノ道、ズット真ッ直グ行ケバ郵便局アリマス…」と無駄にカタコトになりながら郵便局の場所を教えることができた。

しかし、郵便局がもっと分かりづらい場所にあった場合、僕は一体どうやって説明できただろう。指を指す方向をどうにか変えながら、やっぱり無駄にカタコトになった日本語で説明することができただろうか。あの女性が僅かでも日本語を喋れる人だったからよかったものの、完全に英語(もしくはそれ以外の外国語)で話しかけられた場合、僕はその場から立ち去るしかなかったのではないか。

コミュニケーションの壁は自分次第で高くもなるし低くもなる。相手が日本人だろうと外国人だろうと同じだ。そういう壁は低い方がいい。自分が高い壁を作っている側の人間だということに気づき、少し落ち込んでしまう出来事だった。

そんなことを急にふと思い出したのも、その出来事がちょうど今くらいの時期の話だったからに他ならない。

そう言えば、あの女性に郵便局の場所はなんとか伝えることができたが、僕がポストであることを否定するのを忘れてしまった。だから、あの女性の中で僕はポストということになっている。「私はポストではありません」。英語はともかく、アラビア語ではなんて言うんだろう。