井の中のアイランド

エクスとプレス

名前はある

居間にずうっと前から置いてあるぬいぐるみがある。

これ。

物心がついたときから存在を知っている。日本食研の焼肉のタレのCMのキャラクターだとは知っている。でも名前は知らない。常にこういう目つきなのかも知らない。遠い昔の記憶だ。居間の同じ位置にずっと鎮座している。牛であることは間違いない。エプロン(?)も着けている。

目につくものに興味津々の猫たちも、何故かこの牛にはちょっかいを出さない。何かあるのだろうか。ちょっかいを出してはいけない何かが。

思えば僕の家にはよく分からないものがたくさんある。イノシシを模した貯金箱。作製しない状態で保管されたバイクのプラモデル。どれもこれも間違いなく僕が生まれる前からある。今後もイノシシの貯金箱に硬貨が入れられることはないだろうし、バイクのプラモデルを作ることもないだろう。言ってしまえば捨てても構わないものだ。だけど、使ってもいないのにそれほど長く残しているということは、何かとんでもない価値がある気がして捨てられないのだ。